学校法人高橋学園 東金女子高等学校 総務部長
100校プロジェクト参加を契機に、ネチケット(ネットワーク・エチケット)に関心を持つようになった。1995年のはじめに100校プロジェクトのメーリングリスト(ML)を通じてネチケットというものがあるということを知ってから、生徒への指導も必要であろうと資料の収集を始めたが、当時経験不足の私には何を調べたらよいのか見当もつかず作業は遅々として進まなかった。教育関係のMLやネットニューズの場での質問を通じて、個々のケースについては経験あるユーザから助言を得ることができたが、授業で生徒の指導に役立てられるようなまとまった資料の所在は確認できなかった。
1995年10月にAIMITENO ML(ネットワークと教育に関するメーリングリスト)で話題が出た際に、サーチエンジンで検索してArlene Rinaldi女史のThe Net: User Guidelines and Netiquetteという文書の存在を知り、ボランティアを募って日本語化を行った。これが現在のネチケットホームページの前身となる「ザ・ネット:利用者の指針とネチケット」というコンテンツで、インターネットの諸サービスの利用者の心得としてまとまった教科書である。その後、1996年1月の100校プロジェクト活用研究会の折に慶應義塾大学の武藤先生から紹介されたNetiquette Guidelines (RFC1855)という文書の和訳も行い、著者の承諾を得て2月2日に公開した。これはIETF(Internet Engineering Task Force;インターネット技術特別調査委員会)の作業部会(部会長:Sally Hambridge女史)がまとめたネチケットに関する指針で、参考文書として1995年10月に公開されたものである。
これらのコンテンツを中心に、個人的に収集したネチケット関連文書のリンク集も並記して掲載したものが「ネチケット情報(ネチケットホームページ)」である。1996年3月1日にオープンしたところ、ネチケットに関する資料への出発点として多く利用されるようになり、NTTホームページの「URLの広場」で紹介されたほか、雑誌、新聞などでも取り上げられて好評を得ている。1996年7月には財団法人AVCCからGood Siteの選定も受けた。
「ネチケット情報(ネチケットホームページ)」は、ネットワークの利用者や管理者がインターネット利用のルールや心得などについて情報や考える材料を得られることを意図して、関連する資料を内容を問わず(無批判に)掲載している。また、参考資料の収集のみではなく、まだ不足していると思われる資料コンテンツの充実を意図して、微力ながらオリジナル資料の作成と公開も行っている。
IETFのネチケットガイドラインが各サイトでの利用心得の雛型としての利用を意図して作成されたのにならい、それぞれの参考文献をどのように利用するかは読者の裁量に委ねている。編集方針は、以下の利用者に向けた編者のメッセージに集約される。
「ネチケットは法律でも規則でもありません。ルールではなく、マナーやエチケットに相当するものです。 ですから、ネチケットに関する文献の多くはガイドライン(指針)という名称をつけています。
新しい世界に踏み出そうとするとき、自分の判断と責任のもとに自由にふるまっても良いのだといわれても、かえってとまどってしまい、伸び伸びとふるまうことができないものです。何らかの指針が示されていれば、どのように行動すべきかをつかむことができ、より自由に、より大胆に新しい世界を楽し むことができるでしょう。
ここに集められた資料には、ネットワーク社会の先人達が経験から学んできた知恵が収録されています。 この中から、あなたがネットワーク社会で自由に積極的に活動するためのよりどころをつかんでいただけることを期待いたします。 」
時折、利用者からのコメントが届く。多くは役立つページなのでリンクしたいという申し込みで、週数通のペースで依頼されるが、リンクは自由に行ってよいと表示してあるため、特に断わらずにリンクされている例も多い。また、新しい資料を紹介してくれることもあり、逐次資料集に追加している(情報は発信するところに集まる)。時には、ネチケットに関連した具体的な事例に関する相談もある。自分の読んだ資料やfj.net.guidelineといった公開の場での議論を通じて得た知見をもとに助言したりするが、そのような助言を「ミセス・ネチケットの部屋」というページでも紹介するようになった。
これまで「ネチケット情報(ネチケットホームページ)」のようなものが国内にはなかったことは意外であったが、役立っているという声を聞いて嬉しく思っている。特に、ネチケットガイドライン日本語版は参照が多く、複製再配布も無条件で許諾しているので多数利用されているようである。パソコン通信などでよく行われているチャット(CHAT;リアルタイム対話)について、マナーをまとめた文書は他にないらしく、チャットグループ関係からの引き合いが多いのも意外であった。
ただ、運用を通じて徐々に‘ある問題’の所在を認識するようになった。それはネチケットガイドラインという文書が日本のインターネットコミュニティで広く認知されているものではないということである。つまり、ネチケットガイドラインの内容がいかに適切なものだとしても、多くの利用者の合意を経たものでないとガイドラインとして認知することは問題があるのではないかという認識である。その解決のため、fj.net.guidelineの新設提案と「わかなプロジェクト」の開設という2つの取り組みを行った。
fj.net.guidelineというのは電子ニュースの1グループで、あるガイドライン提案文書について公開の場で議論することにより問題点の洗い出し・改善を経て、広く合意できるガイドラインとして認知していくための場である。作成提案は多くのユーザの支持を得て1996年9月に承認され活用されるようになった。
「わかなプロジェクト」は、学校教育でのネットワーク利用規定・ガイドラインの見本を作ろうという企画である。学校教育関係者のみならず、一般のインターネット利用者の参加も得て、学校が利用規定やガイドラインを策定する際の見本となる文書を起草し、「わかなガイドライン」として提案することを意図している。1996年9月以来多くの意見交換を経て、問題点の洗い出しが行われ、具体案がまとまりつつある。
ネチケットホームページへのアクセスは1日あたり約500件、ネチケットガイドライン日本語版が約100件で、同じくザ・ナインプラネッツ日本語版というコンテンツ(こちらの方がファイルサイズが大きい)にも1日200件程度のアクセスがあり、実効速度21.6kbpsという低速な回線では、1日あたり40MBにものぼる情報提供には応じきれず、授業でのインターネット利用に支障をきたしてしまう。そのため、現在はアクセス要求があるとIPAの情報基盤センターサーバに設けたミラー(複製)に自動的に振り向けられるように設定している。これらだけで最低でも1日あたり4時間分の回線占有時間が緩和されており、ミラーサイトへの直接アクセス分も含めると相当量の回線混雑が緩和されていることになる。
学校という機関の性質上、公益的な情報の発信は不可欠であると考えて様々な公益情報を作成したが、外部からのアクセスに回線を占領されてしまうことで、生徒が校内から外部にアクセスする学校教育本来の利用に支障をきたす問題が生じる。公的な補助金の制度もなく限られた予算の中で回線の増強は望むべくもないから、ミラーサイトの利用はこの問題への良い解決となる方策である。今後は、学校が発信するWWW情報について公共サービスであるという観点から、外部からのアクセスを振り向けるための公的なミラーサーバの開設が望まれる。