5.9 わかなプロジェクト
東金女子高等学校 高橋 邦夫
5.9.1 概要
初等中等教育でインターネットの教育利用を図るにあたって、各校でネットワーク利用規定の制定やネチケットの指導が必要となるが、そのためには幅広い経験と知識が必要で、特に新しく取り組もうとする場合には経験と知識の不足が問題となってくる。その際に見本となるモデル・ガイドラインがあれば、学校教育におけるインターネット利用者教育に早期に取り組むことができ、インターネットの正しい利用の普及に資することができる。この目的に利用できるガイドラインの資料で現在得られるものは米国等で作成されたもののみであり、必ずしも日本の学校の状況に適応しておらず、日本版モデルガイドラインの早期作成が望まれる。
本企画はこのようなモデル・ガイドラインの作成を目指したもので、インターネット利用経験を持つ小中高の教員を中心に、より多くの経験を持つ大学関係者や一般人からの助言を得て意見交換を行いながら、初等中等教育機関の児童生徒のためのガイドラインの見本を作成することを目的とする。 ガイドラインは利用規定の雛型とネチケットとで構成し言語は日本語。また、標準規格
(standard)として押し付けるものではなく、各学校が独自の規定やガイドラインを定める際の参考として活用できるものとする。学校教育関係者ばかりでなく一般の参加も必要だと考えるのは以下のような理由による。すなわち、
(1) ネチケット(ネットワーク・エチケット)はインターネット利用上のマナーであるが、どの行為が良くてどの行為が悪いかという線引きには広くインターネット利用者間の合意形成が必要であること、(2) 学校の特殊性もある一方で、ネットワークでつながっていれば広く一般にも関わる状態であること、(3) ガイドライン作成に必要なインターネットに関する経験と知識は教員にはまだ乏しいことなどから、議論への参加は学校に限定せず、一般からの意見を取り入れることは重要となる。メーリングリストとWWWを併用して意見情報交換を行い、合意を形成しながらモデル・ガイドラインの作成を図る予定である。
作成したモデル・ガイドラインはWWW、FTP等の方法で公開する。
まずはモデル・ガイドラインを作成し、将来は実際の運用実績をもとに改訂を加えていくほか、集めた資料をもとにインターネットの利用方法やネチケットなどを学ぶオンライン教科書の開発へとステップアップすることも検討している。
5.9.2 実施
(1)日程
1996年9月より活動開始。平成9年度は新100校プロジェクト自主企画という形態をとって引き続きサーバリソースの供用支援を得て意見情報交換を継続している。
(2)参加者
有志の小中高等学校教員、一般人などから協力者を公募し、ワーキンググループを構成。メイリングリスト上で意見情報交換する合議体の体制をとる。筆者はメイリングリストサービスおよび
WWWサイトの借用等に関する便宜的な事務窓口を担当する。
(3)実施内容
・利用規定・ガイドラインに関する意見情報交換
情報基盤センターのサーバリソースを借りてメイリングリスト
wakana (wakana@edu.ipa.go.jp)を運用し, WWWホームページに意見情報交換のログと参考資料および成果物を掲示している。
図5.9−1 わかなプロジェクトホームページ
・議論の内容
学校におけるネットワーク利用規定類についてどのような内容のものであるべきか,またガイドライン見本提供後の利用のされかたを想定した上でのガイドライン文書の適切な公表の方法についての議論では,不麿の大典のような教条主義的扱いをされないように注意深く公表し,子供の人権(児童の人権に関する条約)に配慮することなどの基本的な方針が話し合われた。
また,どのようなガイド文書が必要かについては,利用者向けの規定およびガイドライン(ネチケットなどの規定とは異なる性質の事柄)の見本,ネットワーク管理者向けのガイドライン,
WWW等で情報を公開する上でのガイドラインなどが必要であるとの議論がなされた。折しも,
1996年11月末からの世田谷区立小学校におけるホームページへの個人情報掲載問題がおこり,問題の所在などの確認と状況の落ち着きをみるまでの間,混乱や事態への悪影響を避けるため情報公開のガイドラインに関する取り組みは停滞した。議論の流れの中で,特にネットワークを管理する側が身につけておくべき知識についての議論が深まり,多くの情報と意見が集まったため,まず管理者向けのガイドライン見本を作成することになり,
1997年12月にβ版をプレビューした。
5.9.3 効果と課題
(1)成果の公表
本企画に関する情報,意見交換ログ,成果物は以下の
URLで公開している。
わかなプロジェクト
http://www.edu.ipa.go.jp/wakana/
(2)効果と課題
2年ほどの議論は,当初こそ活発ではあったが,後半は散発的な議論に留まった。しかし特定のテーマが話題として持ち上がると集中的に討議する雰囲気は醸成されており,まじめな議論が展開されている。議論を傍聴するのみで発言しない参加者も多いが,重要な議論で反対意見のある場合には必ず発言してくれることからして,賛成の場合には無言の同意を行っている場合も多いようである。いろいろな意見を視聴することで視野を広げる役にたつという理由で参加している人もいる。
意見情報交換の中では,特に学校関係者以外の一般からの意見には参考になる材料があり,多くの人々に受け入れられる、また受け入れられるべき物を合議により作成する場として適切なものとなった。
わかなドキュメントとして公表できるようになった有意の成果物としては,まだ学校ネットワーク管理者ガイドラインのみであるが,この間の議論を通して得られた知見はさまざまな学校ですでに作られている利用規定の作成などにも反映されており,この特殊な問題に関する意見情報交換の場として適切な役割を果たしているものと思われる。
予定の文書の作成が未了なのが課題であるが,2年の間に問題の所在や対応方法などについて多くの物事に知見を得るなど参加者自身の成長もあるので,今後の議論を通じてできるものものからガイド文書の作成にあたりたい。